【小説心霊現象 シリーズ】
copyright 尾形俊(鈴木俊行)2021~2025
※これは脚色してありますが、起こった現象は実話です。
※霊の存在は科学的根拠がないとされていますが、故に存在しないという証拠にはなりません。肉眼では見えないものは沢山あり、例えば、赤外線、電波、素粒子、宇宙の果て、更にコロナウイルスも見えません。
1 「病院のエレベーター」(2021年)
都内の或る5階建ての中規模救急病院。私が看護師として勤めていたそこには集中治療室もあり、先進医療設備が整っている。
或る日の夕方、交通事故に遭い重体となった30代の女性が救急車で搬送されて来た。
集中治療室に運ばれたが、暫くして心肺停止状態或いは危篤状態となり、医師による懸命の蘇生術が施されているのを、駆け付けてきた両親がうろたえながら別室で見守っていた。
手の施しようがない程の重体だったようだが、まだ患者さんは息を吹き返しながら必死にこの世に留まっていた。
一般外来の時間帯も過ぎ外は暗くなった頃、患者さんの弟さんも駆け付けるとのことで間もなく病院に着く旨の連絡が有ったので、私は救急外来の1階入り口で待つことにした。なにしろ院内は古くて迷路のようなのだから案内しないと迷子になる。
すぐに、青ざめた顔の弟さんがタクシーで到着したので、私は集中治療室と両親が待つ部屋が有るフロアに上がるエレベーター前まで案内し、そのフロア階数を教えてエレベーターのボタンを押した。
そこのエレベーター内の壁には、一枚の風景写真が額に入れられて掛けられて有る。それは、エレベーターの振動や風でほんの微かにいつも揺れてしまうのだが。
一般外来の時間帯はとっくに過ぎているので、1階のエレベーター前、そのあたりには誰もいない。
エレベーターが1階に降りてきた。
扉が開く。
弟さんは、エレベーター前の廊下のソファーに疲れた様子で座っている。
あたりに風は無い、地震もないから建物も揺れてもいない。
扉が開いた。
すると、バタンバタンと大きな音がエレベーター内からした。
エレベーター内の風景写真が、異常に大きく揺れている。
いや、揺れているというよりエレベーター内の壁に激しくぶつかりバタついている。
ただの揺れではない、何かにあおられている。
私は知らぬ顔でというより冷静さを装い弟さんをエレベーターに乗せて見送った。
あとから聞くと、弟さんをエレベーターに乗せた時刻は、ちょうど患者さんが息を引き取った時刻だったようだ。
あの風景写真があれ程に音を立ててバタバタと揺れたのは、後にも先にもあのときだけ。
2 「寺院会館の自動ドア」(2021年)
寒い冬の夕刻から、私が寺務長として勤務する寺院で、或る檀家様の通夜が執り行われた。
山門の脇にある敷地入口には、葬儀や法要などの法事の為に使う会館が建っている。
寺院のある場所は、JRの駅に近く、そこは商店街からすぐの住宅街で、目の前は片側二車線の車道が走っている。
夜、歩行者はほとんどない。
つまり、普通の都会の静かな街である。
午後6時、リンを打つ深い音が響きわたり住職による読経が始まった。
あたりは既に真っ暗。
その日は、通夜は一件だけ。
会館は2階建てで、式場とお清め所は2階にある。
遺族や会葬者は合わせて10人程度のこじんまりしたもの。
既に通夜に参列する予定の方は揃っている。
私は、まだ万が一会葬者が来ることに備えて1階の寺院会館入口内のフロアに設置した受け付けカウンターにいた。
会館入り口は、道路に面した自動ドアである。入り口を入るとすぐそこは風除室で、会館1階フロアに入るためにはもう一つの自動ドアを越える。
私のいる1階フロアもさほど広くはなく受け付けカウンターからは、その2つの自動ドアがよく見える。
読経が始まって程なく風除室内側の自動ドアが開いた。
そして閉まらない。
しかし、誰もいない。
しかも、入り口の自動ドアは開かなかった。
自動ドアは光線式または熱線式で、光や熱に反応して開く。
当寺院の自動ドアは光線式で、たまに蝶やゴミに反応して開くことがあるが、そのようなことはめったにない。
入り口の自動ドアがまれに歩行者などに反応して開いても、内側にある風除室の自動ドアは開いたためしがない。
30秒程度して自動ドアは閉まった。
そしてまた10分ほどして風除室内側の自動ドアが開いた。
もちろん入り口の自動ドアは閉まったままである。
会館のフロアには誰もいない。
私は受け付けカウンターに座ったまま動いていない。
おかしい。。。
30秒程度して自動ドアは閉まった。
10分後あたりにまた再び風除室内側の自動ドアが開いた。
入り口の自動ドアは依然として閉まったままである。
そしてまた、
30秒ほどして閉まった。
そう、
読経中の約50分間に4〜5回、風除室内側の自動ドアだけが開閉したのだ。
入り口外に歩行者はいない。フロアにも私以外誰もいない。
いったい、風除室内側の自動ドアは、何に反応したのか。
それも読経中規則正しく数度も。。
読経が終わると、ピタリと止んだ。
3 「葬儀場の非接触検温機」(2021年)
都内の或る葬儀場に勤務していた頃、私はフロント係をしていた。
葬儀場には、葬儀待ちのご遺体で、安置だけをする預かりのご遺体を含めて、常に霊安室はいっぱいになっている。
その日は、告別式も通夜も、納棺式も、焼香来客もない、つまり誰も来ない暇な日だった。
葬儀場の会館内は、一階から三階までが葬儀式場とお清め所で、四階と五階が事務室等になっている。
そして霊安室は地下だ。
通夜がない日は午後6時に閉館するのだが、そういう暇な日は夕方から閉館時間までの時間帯は、スタッフは事務室で事務仕事をしていて、地下から三階には誰もいない。
つまり、そのときは、
エントランスホールの一階フロントには、私だけしかいなかった。
会館内に、スタッフ以外に誰かいるとしたら、それは何体ものご遺体だ。
その日の夕刻、
通夜がないので、閉館間近のスタッフたちは、やはり事務室で事務作業をしていた。
午後5時過ぎ、
フロント前に置いてあるスタンド型非接触式体温測定機が、突然作動した。
その体温測定機は、フロントの向きと同じ方向を向いている。
私はフロントカウンターに腰掛けていたので、体温測定機の後ろにいたことになる。
体温測定機が向いている先はエレベーターホールだ。歩行者や車が通る道路に面した入り口方向には向いていない。
非接触式体温測定機は、赤外線で近くにいる人の顔を検知し、顔を照らすライトが光り、モニター画面がつく。
手をかざしても作動しないし、背中、頭の後ろなどでも作動しない。ましてや遠くにいる人や、物体や自動車等には反応しない。
その日の夕刻は、通夜がないことから、フロントのあるエントランスフロアの照明は絞ってあり薄暗かったことから、体温測定機のライトが点灯したことが、体温測定機の後ろのフロントカウンターにいる私にも分かった。体温測定機の前が、つまりエントランスホールとエレベーターホールが僅か少し明るくなるのだ。
そして、何故か、体温測定機のライトは点いたまま消えない。
体温測定機の前に立ってみた。
私の顔が写った。
そういう意味では異常はない。
しかし、私が体温測定機の前からどいてもなお、ライトとモニター画面は消えない。
しばらく様子をみた。
おかしい。ライトもモニター画面もまだ消えない。点いたまま、まだ消えないのだ。
故障か?
体温測定機が向いている方を見た。
いや、何もいない。
というか、誰も居ない。
体温測定機が向いているエレベーターホールには誰も居ないのだ。
エレベーターも動いていない。
客もスタッフも居ない薄暗いエレベーターホール。エントランスホールにはもちろん私だけしか居ない。
その筈だ。
もしかしたら誰か居るのか。
私は、再度体温測定機が向いている方向を見た。じっくりと見た。
やはり誰も居ない。誰も居るはずがない。
反応するような何かは何もない。
体温測定機のライトとモニターがずっと点いたままであることにしびれを切らした私は、体温測定機の向いている方向を手で動かして変えてみた。
反応対象がないときは、体温測定機のライトはすぐ消えて、モニター画面もその後に消える。
じっと様子を伺っていたら、いつもどおりにライトもモニターも消えた。
その後には、同じような現象は再び起こらなかった。
その後は普通に作動し、それは故障ではなかったのだ。
体温測定機の向いていた方に、いったい何がいたのだろうか。
ちなみに、体温測定はできなかったようだ。
この世のものではないものには、体温が無いようだ。
4 「飲み屋カウンターの黒い煙」(2021年)
その頃、私は、或る下町の個性的な飲み屋さんをはしご酒するのが趣味だった。
その街の飲み屋街で、自然と飲み仲間が増える。
あちこちの飲み屋でいつも顔を合わせて親しくなっていた女性たちとも、一緒に飲むことが多かった。
もちろん、周りには飲み仲間の男性も多い。
つまり、男がいて女がいれば、色恋沙汰になるなんて当然の流れだろう。
その飲み仲間にAというモテる美人女性がいた。やはり同じ飲み仲間グループにはBという女性がいて、その娘は同じ飲み仲間グループの男性と付き合うようになっていたのだが、
モテる美人女性Aが、その男性と寝てしまったのだ。
私は、その経緯は知らない。
もちろん、寝盗るなど褒められる事である筈はないが、飲み仲間グループや飲み屋では、酔いの勢いで、色恋、金、暴力、裏切り、一部では博打、ドラッグなど何でも有りだった。
そしてある日、女性Aと女性Bが或る飲み屋の外で言い争いをしていた。
そのときは、私は事情も分からず、面倒くさいから関与などしない。誰も知らぬふり。
また喧嘩か!ぐらいで、ちょっかいは出さなかった。その方が皆無難だからだ。
その日の深夜、女性Aと焼き鳥屋「だ○ま」で偶然会い、
女性Aは私に、
「ね〜、聞いてよ」と言ってきた。
女性Aは、女性Bと大喧嘩して数時間経ったのだろう。
「女性Bと喧嘩になったのよ。すごい剣幕だったわ。私、彼女の彼氏と懇ろになっちゃってね」
私は応えた。
「そりゃまずいだろ。何やってんだよ」と。
でも女性Aは続けた、
「だって、彼氏から口説かれたの。てっきり彼女とは別れたのかと思ったわ」
私は、そんな自分に関係のないどうでもいい話に興味はなかったが、
そのどうでもいい女性Aの愚痴や言い訳を、長々と聞いていた。
そこは、カウンターと小さなテーブル席が二つしかない狭い焼き鳥屋。
私達は、カウンターで二人並んでウーロンハイを飲んでいたのだ。
そのとき、ふと、私は気配を感じた。
腰掛けていたカウンターの下、自分の足元をとっさに見た。
ドブネズミか?
そう思ったぐらい黒っぽい影(煙)が、すっと店の入り口から私の前を通り隣に座っている女性Aの方に走った。
気のせいだろう。
私はそう思ったが、
念の為、女性Aに訊いた。
彼女には、多少の霊感があるようだというのは、私は前から気付いていた。
何処から拾って来たのか、古くて壊れた柱時計、泥にまみれた狐のぬいぐるみ、何て書いてあるのか解らない御札、奇妙な絵が書いてある木箱。。。などなどを。
女性Aは集めている。いや、集まって来てしまうのかもしれない。
話を戻そう。
すっ〜と店の入り口からカウンターの下を走った黒っぽい煙の話。
「おい、今何か黒っぽい煙みたいなのが、カウンターの下をあんたの方にすっと通らなかったか?」と、女性Aに尋ねた。
「うん。見たわ。間違いない」
女性Aは、そう応えた。
「え? 見えたのか?」
そうか、見たのか。。。
私と同時に同じ物(者)を見たようだ。
彼女は怯え始めた。
「生霊?!」
私達は、ほぼ同時に声にした。
まさか。。。
黒い色の煙、それはたちが悪い。
異様なものから逃れようと、
私と女性Aは、近くのバーに行くことにして移動した。
薄暗い地下のバー「○my's bar」。
地下で湿っぽいその店を避難場所にしたのは失敗だった。
黒い影は、付いてきたようだったからだ。
そして、その次の日から数日間、女性Aは自宅で寝込んでしまった。
女性Aと女性B、そして間に挟まっている男性のその後の関係は、私は知らない。
ただ、その女性A、その後の彼女の人生は、病気や事故、友人の死など良からぬことが今も続いている。
黒い影だけの影響だとは思えないが(女性Aが持っているそもそもの邪気)、
私は、祓う自信がない故、関与もしたくない。
************
カウンターの下を走った黒っぽい煙みたいなの、それが生霊なのかは分からないが、実は生きてる奴が一番怖い。
5 「写り込んだ煙」(2021年)
その日、早めの夕方あたり、まだ明るいうちに、業界の部下数人を連れて、ありふれた飲み屋のチェーン店「○や」へ行ったときのことだった。
その仲間は日頃から親しくしていた気のおけない奴等で、一緒に飲むことは珍しくはなかった。
その店は、一階がテーブル席が10卓ぐらい、二階が座敷。
私達は、一階の厨房から離れた入り口付近のテーブルに陣取り、刺し身や唐揚げ、奴、オニオンリング、サイコステーキなどをつまみながら、ビールやサワー系を飲んでいた。
そして、まだ店内はガラガラ。
仲間のうちの1人に、尾道出身の○亀君という少し気の弱そうな、いかにも悩みを抱えていそうな男がいて、私は日頃からいろいろ相談にのったりしていた。
彼はあまり酒が強くないが、その日は陽気に飲んで喋っていた。
話もはずみ、それほど酔わないうちに河岸を変えようということになり、記念に写真でも撮ろうということに。
私は持参したデジカメを取り出して、皆の写真を撮っていたのだが。
○亀君の写真を撮り、
そして、彼の上半身の写真、上手く取れたかモニターで確認したとき、
その写真には、
テーブルの下から湧き上がるような白い濃い煙。
○亀君の胸のあたりから顔までが半分以上その白い煙に覆われて霞んでいる。濃い煙、それは渦が幾重にもモクモクと。
外はまだ明るく、店内も照明で明るい。
怪しいものが写り込む時間帯ではないような。
煙草?
いや、
店内では誰も煙草を吸っていなかった。ガラガラの店内、回りのわずかな客も煙草を吸っていなかった。
なにしろその一階フロアは、禁煙だったのだ。
厨房では焼き物などで煙も上がってなかったし、厨房から遠いそのテーブル席には、万が一でも煙が届くはずもないのだ。
仮に、近くで誰かが煙草を吸っていたとしても、彼の顔を覆うほどに、それほどモクモクとはっきり濃く煙は写らないだろう。しかも、煙らしきものは、○亀君の位置のテーブルの下から。なおかつ、煙草の煙とは立ち昇り方、たなびき方、煙の量、渦の巻き方がまるで違う。
私は焦ってもう1枚彼の写真を撮った。
照明の加減などの光学的現象ではないかと思ったからだ。
2枚目も同じように彼の顔は白い煙で覆われていた。
まさか。
すかさず3枚目を。
しかし、3枚目は普通に彼の顔が写っていた。
白い煙に覆われた写真は彼には見せずに、普通に撮れた画像だけを見せることに。心配かけたくなかったから。
それから、近くの居酒屋へ二次会に出掛け座敷席で飲み始めたのだが、○亀君は少しもしないうちに酔い潰れて寝込んでしまった。
皆は気にせずに、いつものことだしと言いながら宴会を楽しんだ。
それからひと月後、突然、○亀君は業界団体の表舞台から消えてしまった。
かつて数度だけ、彼の家に遊びに行ったことがあったが、異様な雰囲気などはなく、逆に何も感じるものが無さすぎる気がした。
霊に例えるなら、悪さをするようなのはいないが、守護霊と縁遠いような、何かそういう雰囲気。
あの白い煙は、通りすがりのものだったのか、○亀君に憑いていた何かだったのか。
今となっては知る由もない。
その飲み会以来、長い間彼とは会っていない。
彼の身に何事も無かったこと、今後も何事も無い事を祈るばかりだ。
その写真データ? その日のうちに消去したことは言うまでもない。
6 「1人多い?」(2021年)
或る日の葬儀場。
私が葬儀スタッフをしていたその日、
いつもと変わらず、それは、ありふれた通夜だった、筈なのだが。
家族葬なので少人数。
御喪家などの会葬者は全部で13人。
通夜ぶるまいも、寿司やオードブルをだいたい13人前分で、
お席も13人席を用意してあった。
開式前に、葬儀場エントランスで御喪家、御遺族などをお迎えしたときも確かに13人だった。
もちろん、式場のお通夜の椅子も13席だった。
しつこいが、間違いなく通夜ぶるまいの席も13席だったのだ。
食事が終わり、皆さんがお帰りになるので、葬儀場エントランスでお見送り。
一応、居残りがいないかを確認するために人数を数えるのだが、14人?!、、、いた。
え〜っ、1人多い。。。
そもそも人数が少ないから数え間違うはずがない。
全員が帰られたのち、
配膳担当のスタッフに尋ねた。
「食事されたのは何人でした?」
答えは明瞭だった。
「え? 知ってるでしょ。変更なしの13人よ」
念の為、13人以外に食事されない方がお清め所にいなかったか訊いた。
「そうですよね。で、お清め所には何人いました?」
答えは変わらず、
「ばかね。食事されたのが13人なんだからお清め所には13人よ。」と。
やはり、13人だったか。
エントランスで見送りをしたとき、おやっと思った人が、そういえばいた。
その方、お迎えのときには見なかったような。
皆に紛れて帰って行ったあの喪服の腰の曲がった白髪のお婆さんは誰だったのか。。
式場の片付けをしながら、思わず、遺影をまじまじと見つめてしまった。
そっか。。。。なるほど。
7 「揺れるブランコ」(2025年)
或る有名な都内の神社境内の脇に、
木が茂る川沿いの広い公園が有る。
そこにはブランコ遊具が一基有る。
4つ有るブランコのうち、
一つだけが大きく揺れていた。
その広い公園や、
もちろんそのブランコの回りには人は誰もいない。
風もない。
誰かが直前まで遊んでいた姿もまったくない。